短編小説①大学生と忍者

「忍者は知っているか?そう黒い装束を着て口元を覆い隠して、陰に生きる隠密集団。忍者。」

「うん知っているよ。あの某有名アニメにもあるよね。」

「そうそうそれそれ。」

「それがどうかした。」

「もし忍者が現代にもいるとしたらどうする?」

「どうもしないよ。現代社会に溶け込んでいるのはすごいと思う。まあ忍者ならやれそうだよね。どうしたん、突然。おまえ忍者なの?」

「っふふ実はね、そうなんだよ。」

「まじか。」

「といいたいところだけど違う。うちは代々百姓だわ。」

「なんやねん。突飛なこと言うのはやめなはれ。」

「すまんすまん。でも仮に忍者が現代にも生きてたらどんな仕事して生きていてるんだろうね。」

「知るかい。」

「それな、間違いない。」

「で、いつまでこの話は続くん?」

「ああもうやめるよ。そうそう。本当は違うことが言いたかった。」

「なんやねん。それを早くいいな。」

「おけまるだよ。前回の授業のことなんだけどなんか教授大事なこと言ってた?」

 

遠くで同級生が会話している。私は野菜ジュースを加えながら何気なく聞いている。いつもの講義室の光景。昼休み、このキャンパス内でも奥に位置するビルの10階。30人ほどが入れる教室にはほとんどだれもいない。はるか下で学生たちがご飯を食べたり、サークルや部活動にいそしんでいる。私や同級生たちは次の授業がここで行われるから週に一回この「秘境」で顔を会わせる。顔も名前も覚えたが、授業が一緒名だけでそれ以上でもそれ以下でもない。それでいい。私にも友達はいるから問題ないのだ。彼とはもう少し仲良くはなりたいけど。

今日の彼らの会話は「忍者」。毎週毎週トピックは変わるが飽きないものだ。別の授業の課題を眺めながら、今日も私は野菜ジュースを片手に、彼らの話を盗み聞きしている。

 

(なんでばれた?)(いや、へまはしてないし、それらしい素振りはしていない。)(たまたま話題に上がっただけだ。)(動揺するな。)(血流を安定させろ。)(問題ない。)(大丈夫。)(そうだ。)(そうだ。)(いいぞいいぞ。)(やればできるじゃないか。)(いいね、そのまま。)(ふう。)(そう。)(そう。)(そのまま。)(笑顔で教室に入るんだ。)(よし。)

 

 

チャイムが鳴った。